資料編(2) ─ 衛星通信テレメータによる機動観測の高度化

地震観測データ送 信局として全国6大学に整備された200台の超小型衛星地球局(VSAT)のうち、当初約 110局(うち地震研分40局)が既設観測点に設置され、残り約90局(うち地震研分35局) 程度が機動観測用可搬局として確保された。可搬型衛星送信局は22ビットの高分解能と GPS刻時機能、パケット伝送機能をもつデータ変換装置を含み、 直径75cmの小型パラボラアンテナ により、小笠原諸島を含む日本全土できわめて迅速に高精度な機動的観 測を展開できる。機器の設置は2人×2時間程度で行なうことができ、即座に地震波形 の伝送が開始されてデータは全国の研究者にリアルタイムで配信される。1996年度には 可搬型衛星送信局の組立トレーニングまでを行なった。

1997年度より衛星システムの本格稼動が始まり、可搬型衛星送信局による、電話回線や 地上無線の利用できない場所でのリアルタイム・テレメータ観測が可能になった。1997 年6月25日に山口県北部を震源とするM6.3の地震が発生し、全壊1戸を含む小規模な被 害が生じた。地震研究所では余震活動の推移および精密な震源分布の把握のために、3 ヶ所(十種ヶ峰、片俣、野田)の臨時観測点による余震観測を行い、この観測で初めて 可搬型衛星テレメータ送信局3台を使用した。可搬型送信局用の衛星帯域は常時確保さ れており、現場でパラボラアンテナを衛星に向け、衛星モデムに地震計とデータ変換装 置を接続するだけで、即座に高分解能AD変換器による高精度オンライン観測を開始する ことができる。データは衛星システムにより地震研究所および関係各大学の送受信局に 配信され、それぞれ必要に応じた収録形態でリアルタイムに共有された。

これ以降、いくつかの大学により可搬型衛星送信局を利用した機動観測が実施された。 特に1997年秋からは東北奥羽山地合同地震観測が開始され、臨時観測点50のうち地震研 究所は17点に可搬型衛星送信局を使用している。1999年春現在この観測は継続中で、同 年夏にはさらに2年間の予定で観測地域が北海道日高山脈周辺へ移される予定である。 衛星システムの導入により、高精度のテレメータ機動観測が、地上回線の制約なく容易 に行われるようになり、一方でパラボラアンテナの設置等、衛星テレメータによる機動 観測のためのノウハウが蓄積されつつある。可搬型衛星システムは、特定観測地域にお ける集中観測や緊急余震観測といった機動的観測の有力な手段として活用されるように なった。

前の資料へ / 次の資料へ